11月最終週。これから厳冬期を迎える立山では軒並み山荘がクローズし、静けさをみせる。そんななか、毎年コアなスノーボーダーたちはこのタイミングを狙い、自ら持ちこんだテントを雪面に設営して泊まり込み、山のコンディションを見極めながらシーズン1発目のパウダーを狙う。
今年も数人のライダーたちが、今シーズンの初パウダーを信じてここ立山に集結した。
Text: Gaisu /Photo: Shin Otsuka /Special thanks: 241
FREERUN2019年1月号掲載記事 特別WEB公開。

山のスペシャリストたちの背中。彼らが雪山でどれほど頼もしかったかはぜひ本文を見て知ってほしい

山のスペシャリストたちとシーズンインを立山で

以前から話が出ていた立山での雪中テント泊シューティングが遂に実現した。
この話を持ちかけてくれたのは、スノーボードウエアブランド241だった。2シーズン前のこと、241との共同企画で「DAVOS D.I.Y SNOWBOARDING」という記事をFREERUN(2017年12月号)で掲載。そのストーリーは雪が残る4月の初春に、菅平高原の牧場で暮らすスノーボーダー齊藤 哲(サトシ)と伊藤 高。彼らの自宅があるダボス牧場で仲間と雪中キャンプを楽しみながら、人工地形をクリエイトして遊ぶというスノーボーダーらしい発想から生まれたセッションだ。詳細は割愛するが、このライフスタイル感丸出しの企画は読者から大きな反響を集めた。
その続編の舞台が今回の立山だ。美谷島ブラザーズ(慎&豪)をはじめとする241ファミリーは、毎年シーズンインを立山で迎えるのがお決まりのルーティンらしい。また同チームの中村俊啓は、室堂ターミナル内での入山安全指導員や登山道整備など、年間を通じ立山に関連する仕事をしている。このメンツに前述した齊藤 哲と、昨シーズンより241に加わった新潟エリアのハードコアな斜面を探求する吉田勇童、長野在住で美谷島兄弟と深い繋がりのあるPRANA PUNKSのライダー高野有哉が今回のシーズンインセッションに参加。フォトグラファーは立山を知り尽くす大塚 伸さんにオファー。こうして山のスペシャリストたちとの立山セッションが具体化し、シューティングがウェイティングされた。狙う日程はもちろん11月の最終週。
過去にFFREERUNメディアで何度か掲載してきた立山だが、恥ずかしながら僕は一度もこの地に行った経験がない。しかも今回のシューティングは一足先に厳冬期を迎えている真冬の雪山でのテント泊。前回のDAVOSで雪中キャンプスタイルを体験してはいたものの、今回の立山においてはテントを張るベースは標高2,400mを超える山岳エリア。その場所でのテント泊で予想される未体験の寒さに正直ビビっていた。さらに初滑りをゲレンデではなく、いきなり雪山のバックカントリーで迎えるというのも自分にとっては初体験だからなおさらだ。
準備はどうしよう…。同行するメンバーに必要なアイテムを聞くと、ビーコン、プローブ、ショベルにスノーシューとポールを取り付けられるアタック用のザック。さらに寝袋などのテント泊に必要なアイテムを入れるためのバックパックは最低でも55~65Lの容量を持つビッグサイズが必要。他にも寝袋の下に敷くマットや食事に調理器具、水筒、防寒ダウン、スノーブーツなど… と、荷物は多い。厳冬期の雪山でも使える4シーズン用のテントは持ち合わせがなく、今回は仲間のテントに入れさせてもらうことに。その分の荷物が少なくなったはずだが、今回のために購入した55Lの大容量バックパックに自分の荷物はギリギリ押し込めたという感じ。
こうして来たる初立山に向け準備を進めながらその日を待ったのだが…。

雄大な景色を眺めながら滑る斜面をハントする。今年の立山は例年よりも積雪が少なくところどころに岩肌が見える

近年稀にみる雪不足の立山

11月の最終週に予定された日程に向け、立山にいるフォトグラファーやライダーと現地のコンディションについて連絡を取り合った。しかし、今年の立山は近年稀にみる雪不足。寒気が入り降雪はあったものの、その後の気温の高さや雨によって雪溶けが進み、例年に比べ約1m以上少ない状況が続いていた。しかも予定している11月最終週の週間予報もあまりパッとしない。寒気は入りそうだがそれほど強くはなく、降雪量も数センチ程度の予報だった。
今月号で掲載するために準備を進めていたが、あまりにもコンディションが悪いのなら、無理してこのタイミングにしなくてもいい。正直僕は、あまり期待のできないコンディションならこのシューティングをバラすことも考えていた。しかし…、241ファミリーのキャプテン的な役割をする美谷島 慎に連絡をしてみると、意外な答えが返ってきた。「俺はいずれにしても行きますよ。コンディションが悪くてもテントを張ってキャンプスタイルを楽しみながら、シーズンインを立山で迎えようと思ってます。それに最後の3日間なら当たるかもしれないですからね」
ライダーたちもFacebookのメッセンジャーでグループを作り、立山にいる俊啓と日々情報を共有している。現地のリアルな現状に加え週間予報も日々チェックしているなかで、かなり前向きな答えが返ってきたのには驚いた。もちろん他のメンバーも参加する意向で一致。日程は11/28(木)~30(土)の3日間に決定し、着々と最終準備へと進んでいった。
長野と富山の県境に位置する立山へ向かう方法には、立山黒部アルペンルートという標高3,000m級の山が連なる北アルプスを貫いた富山と長野を結ぶ山岳観光ルートがある。関東からのアクセスでは、長野・大町にある扇沢という駅から向かうのが一般的だ。そんな情報を最終確認しつつ木曜に別の取材があった僕は、金曜の朝一で現場へ向かうことになった。一方で長野に住む美谷島兄弟と有哉の3人は一足先に木曜の最終便で大町ルートから立山に向かい夕方に到着。現地にいる俊啓と合流し、テントの設営を済ませると「ナイトライディング完了しました!締まった硬い雪の上に新雪が15センチ。滑るには十分」と、いきなりメッセンジャーでその日のライディングフィーリングを教えてくれた。しかもナイトハイクで…。これにはさすがとしか言いようがない。
翌朝フォトグラファーと合流した4人は、真砂岳の8号目くらいまで登り撮影を開始。山の上部は薄っすらパウダーの箇所があるものの基本的にはカリカリなアイシーコンディションだったようだが、これはこれでいい足慣らしといった感じだろう。夜は雲もなく風も穏やかで、彼らはテントの外で澄み渡った冬の星空を眺めながらの鍋パーティを満喫したという。

ベースキャンプでの1枚。この立山シューティングでは2日間ともに朝は良く晴れたが放射冷却によって気温は-10度を下回る寒さ
見ての通り日陰には特にアイシーな斜面が広がる。そこを一歩一歩慎重に登っていく
アラスカをはじめ世界中の雪山を滑ってきた経験を持つ慎。彼が認めたスノーボーダーを集めたのが241ファミリーだ
テントサイドでお手製のうどんランチを作る豪(右)。これも雪中キャンプの魅力
マイペースだがやるときはやる男、哲。このシューティングではかなりいい動きを見せていた

マイナス15度の極寒地でテント泊

金曜の朝、残りのメンバーたちも立山へ向かった。新潟・長岡に住む勇童は上越を抜け富山側から向かい、菅平に住む哲と僕は大町側からアクセスした。
室堂ターミナルで、ちょうど富山側から上がってきた勇童と合流し、そこから歩いて5分くらいの場所にある仮設野営指定地に向かった。山荘の営業期間中はもっと奥にある雷鳥沢付近がキャンプエリアになるが、この時期は環境保全の観点からターミナル付近のその場所にテントを設営することになる。到着するなり朝から撮影している先行組の美谷島兄弟たちのテントを探し、その周りにテントを設営していく。まずはスコップで雪のブロックを作り、風をかわす雪の壁を作る。表面がアイシーな雪だったため、そこそこのハードワークとなったが、日中は天候も安定し太陽の日差しが降り注ぐ中で、着々と自分たちの基地を作っていく作業は男心をくすぐる楽しさだった。その場所から真砂岳の方を見ると肉眼では豆粒ほどだが、撮影しているメンバーたちの姿があった。彼らの滑りを双眼鏡で捉えながら昼過ぎには今夜の宿が完成した。
その後僕らも近隣を偵察しようとスノーシューを履き室堂山荘方面へ向かった。風で吹き溜まっている地形には多少のパウダーがあるようだったが、基本的にはカリカリのアイシーなバーン。さらにハイマツなどもかなり出ている状況で雪の少なさが窺える。「今回の撮影はやっぱり外したか…」そう思う反面、今シーズン初の天然雪との触れ合いにワクワクを隠せない自分がいた。辺りを探索していると、遠くに撮影を済ませた5人の姿が薄っすらと見え、彼らと合流することに。

Shin Biyajima
真砂岳で今シーズンの立山を感じる慎。よく見ると小さな氷の塊が随所に見られる。どんなコンディションでもこの山へ行くことを最後までブラさなかった

「いやぁ~上の方はカリカリでしたよ、もう帰りますか!?(笑)」なんて、美谷島兄弟が冗談を交えながら「やっと会えましたね!」と、全員が合流するとお決まりのハイタッチを済ませる。テントに戻ると太陽は雲に隠れはじめ風も吹き出した。「今朝は放射冷却でかなり冷えましたよ」と慎が話すと、フォトグラファーの伸さんが「これから天候が崩れ出して今晩はもっと冷えると思います。少し荒れるかもしれませんね」と続けた。そんな話に僕は不安を抱きながらも、みんなでテント周りの雪ブロックをさらに積み重ね、夜の備えをしていった。

スコップで雪のブロックを作り風からテントを守る雪の壁を造成中。それなりにハードな作業になるが、これがあるのとないのとでは体感温度もかなり変わる
雪の壁を造り終えるとビールで乾杯。よく見ると水色のコップから泡が吹き出ているのがわかるがすでに凍っている

一段落したところでビールで乾杯。すると見る見るうちにビールの泡が凍っていく。そんなキンキンすぎるビールを飲みながら明日のミーティングをする。テントの中ではジェットボイルで日本酒を温め、みんなに熱燗を振舞ってくれる慎。冷えた体に熱燗はしみわたり、数人で居るテントは外よりもまだ暖かいが、いきなり冬のトップシーズンに突入し極端すぎる気温変化に自分の体も戸惑っている感じ。足元はダウンシューズ、さらにこの日のために揃えたダウンパンツをウエアの中に履き、上半身も数枚のインナーダウンを着込んで臨んだが震えが止まらない。そんな中、美谷島兄弟の足元を見るとスノーボードブーツのインナーを履いている。「こうしておけば濡れたインナーも乾くし、このまま寝袋で寝れば朝起きてアウターに足を入れても暖かいですから。全てはライディングのためです」と、スノーボーダーならではのアイディアをまざまざと見せつけられた。
自分のテントに戻る頃には雪が降っていた。簡単な食事を済ませ、-14度まで対応の寝袋にシュラフカバーを覆い寝床に就いた。もちろんダウンパンツとインナーダウンを着て、サーマレストを寝袋の下に敷いているが、それでも下からの冷気にやられて寝付けない。夜が更けるにつれ外は大荒れの模様で、時おり強烈な風がテントを襲う。このまま降り続ければ明日はいいだろうと期待を込め早く寝ようとしたものの、結局3~4時間しか眠れなかった。

美谷島兄弟と有哉の3人が生活したテント内の様子。ガスバーナーで料理をすることで多少は中の温度も上がる。さらに持ち寄った暖かい食事で寒さを和らげる
テントから顔を覗かせながら朝食をとる俊啓。山での彼の貴重な意見と判断力はとても重要だった

次のページを読む