anon.が誇る、史上最速のレンズ交換システム 「Magna-Tech」の実力を探る

anon.のゴーグルの中に「m」の文字がつくシリーズがある。mは「Magna-Tech」の略。その名の通り、磁石の力を使ったゴーグルのことだ。

これまでのレンズ交換システムでは、レバーやツメといった物理的な機構が採用されてきた。しかしanon.はそれを良しとしなかった。磁石を使い、一瞬でレンズの取り付けが可能になる未来的なシステム。この技術はいったいどこからやってきたのか。開発までにどんな苦労があったのか。そして「Magna-Tech」の狙いはどこにあるのか。すべての疑問をアメリカ本国のanon.開発チームにぶつけてみた。

 

Anon-Bode-001
ボーデ・メリルもanon.を愛用するライダーのひとり。アグレッシブなスタイルと、精度の高いテクニカルなトリックは、スピードと地形を正確に把握することが必要だ。見ることをおろそかにできない。そんなライダーが選び取ったのが、anon.の機能性と品質なのだ


マグナテック
マグネットひとつ当たりの引張力は1.2kg。最も多い9つのマグネットポイントを備えるm3ではトータル10.8kg、ポイント数7つのwm1でもトータル8.4kgもの引張力でゴーグルレンズを固定。「モデルによってマグネット数は異なります。フレームの形状やサイズ、支えるレンズの大きさに柔軟に対応しているのが理由です」と開発チーム

離れたところから気持ちよくはまる「Magna-Tech」

現在、「Magna-Tech」を採用しているのは球面レンズのm2とその女性モデルのWM1、そして平面レンズのm3だ。いずれもゴーグルレンズとフレームとにレアアース鉱物を使った強力な磁石を装備。フレームにレンズを近づけると、1cmほどの距離から強力に引き寄せられるのを感じるだろう。そのまま手を離せば小気味よい装着音と共に、レンズはあるべき位置にオートマチックで収まる。何のコツも必要とせず、気持ちよくレンズ装着が完了。しかも装着後のロックさえも不要とした。

取り外しはフレームの端をひねるようにすれば簡単だ。意図的なきっかけを作ることで、ちょうど吸盤を剥がすようにわずかな力でレンズを外すことができるのだ。取り付け・取り外しにあたっては自然にレンズの縁を持ってしまうため、レンズ面に触る事がない。いや、それ以前に力を入れてレンズをフレームに押し込む必要がない。そのためレンズの変形も傷つきも、手の汚れがつくような心配もない。まさに画期的、という言葉がぴたりと当てはまるシステムだ。

「磁石を利用した理由は、レンズ交換を簡単にしたかったからです。我々が想い描いてきた理想は、自動的にレンズがゴーグルに吸い付いてくれるようなシステムです。最初はそんなものが実現できるのか?と思いましたが、未来は想像しなければやってきません。我々はその未来を、磁力で叶えました」

今回、SBNの素朴な疑問に答えてくれたのはanon.のR&Dチーム。開発と、次世代の製品作りのヒントを求めて、日夜フィールドでテストを重ねている。

「現在、Magna-Techは世界で最も速いレンズ交換システムだと自負しています。我々が目指したのは、すべてのライダーが一日中、光がどんな状態に変化してもその場で対応できる「オン・ザ・フライ」な素早さです。anon.の開発チームは長年、そのことを考えながらあらゆる技術に興味を持ってきました」

他ブランドでは広い視界を得るために、ゴーグルを大型化している。しかし、anon.は別の考え方を取り入れた。フレームをいたずらに大きくするのではなく、厚みを抑えることでワイドな視界を得ることに成功した。これによってフレームの重量を抑えることも可能になり、頭を動かしたときのゴーグルの慣性も小さくなった。またレンズのカーブを眼球のカーブに合わせることで、ナチュラルな歪みのない像を得ることに成功している
他ブランドでは広い視界を得るために、ゴーグルを大型化している。しかし、anon.は別の考え方を取り入れた。フレームをいたずらに大きくするのではなく、厚みを抑えることでワイドな視界を得ることに成功した。これによってフレームの重量を抑えることも可能になり、頭を動かしたときのゴーグルの慣性も小さくなった。またレンズのカーブを眼球のカーブに合わせることで、ナチュラルな歪みのない像を得ることに成功している

外れないレンズを、どう外すか

もちろん、これだけ前例のないシステムを実現するには、多くの苦労と新しい発想が求められた。

「Magna-Techの開発は、完全にゼロからのスタートでした。さまざまなスケッチを描き、3Dモデルで試作を繰り返し、プロトタイプを作る。実地テストも含めてすべての過程を終えるまでに2年以上の時間を費やしています。いくつかポイントになった技術がありますが、最も時間をかけたのは簡単にレンズ交換はできるけれど、簡単には脱落しないということです」

確かにレンズ交換が簡単なら、転倒の衝撃などでレンズが外れてしまうのではないかと思ってしまう。

「もしも平らなフレームに、磁力だけでレンズを固定していたらそうなります。けれどMagna-Techの場合、レンズとフレームは組み木細工のように凹凸がかみ合います。このことでレンズ自体がフレームの正しい位置に納まりながら、フレーム剛性を上げる役目も担っています。

Magna-Techでレンズを取り外す際には、フレームをほんの少しひねってやりました。装着状態では十分な剛性があるため、このひねりが生じません。さらにフレームは顔で保持されることで一段と剛性が上がっています。フレームをひねらないでMagna-Techのレンズを外そうとしてみてください。かなり難しいと思いますよ。磁石の力は、それくらいパワフルです。実際の所、プロライダーを起用したテストや転倒衝撃実験でも、レンズの脱落は一度も起こっていません。

実を言うとMagna-Techの技術のカギはパワフルな磁石でしっかり止まったレンズを、どうやって簡単に外せるようにするか、だったんです。もとから外れにくいものだったわけですから、滑走中や転倒時のレンズ脱落はほぼ起こり得ないと断言できますよ」

曇りを防いで快適さをアップさせる2つのアプローチ

曇り止めについても2つのアプローチをとっている。ひとつめは「アウトラストフェイスフリース」。これはMagna-Tech搭載モデルで使われている能動的な素材だ。

「たぶんアウトラストフェイスフリースは次世代の素材と言っていいでしょうね。この肌触りの良いフリースは状況に応じて蓄熱と放熱を自動的にこなし、ゴーグル内の温度変化を緩やかにします。これによって曇りの発生を抑えることができます。曇り始めてから効くのではなく、曇りそうな状況を感知して機能する。まさに能動的な曇り止め素材なんです」

もう一つはm3を始め、anon.の多くのモデルに装備されているマグネット式一体型フェイスマスクのMFI(Magnetic Facemask Integration)だ。

「フェイスマスクについては世界中のライダーからさまざまなリクエストが寄せられました。最も多かったのは、パウダーで顔が寒いから何とかして!というもの。ちょうどMagna-Techが開発中だったので、我々はこれを利用してマグネット脱着式のフェイスマスクを作りました。素材は寒気を遮る防風性に富んだものを利用。これをゴーグルに装着すれば効率よく顔をカバーできる上、装着感もゼロです。ただし、そのままでは呼気がゴーグル内に流れ込んで、曇りの原因になってしまいます。そこでO2ベントと呼ぶベンチレーターを設けました。このMFIは春先の日差しが強いパークでも、紫外線をカットすることに役立っています。なにしろ必要なければ外してしまえばいいわけですから。使い方はライダー次第というわけです」

ヘルメットの上からゴーグルをしても滑らない。フィット感を損なわず、ライディングに集中できるよう、ゴーグルストラップのズレを防止。ビーニーなどとの相性も良く、フードもしっかり押さえ込むことができる
ヘルメットの上からゴーグルをしても滑らない。フィット感を損なわず、ライディングに集中できるよう、ゴーグルストラップのズレを防止。ビーニーなどとの相性も良く、フードもしっかり押さえ込むことができる


ヘルメットをもっとクールに安全に

加えて言うなら、と開発陣は付け加える。

「パークだけでなく、バックカントリーでもゲレンデでも、ヘルメットの重要性は無視できないと考えています。

スノーボーダー的に言えば、ヘルメットはゴーグルをした上にかぶれれば最高です。クールだし使いやすい。けれど、ゴーグルストラップのバックルは、衝撃を頭蓋骨のバックルが当たる部分に集中させる危険性があります。スナップバックはこの大がかりなバックルを排除しました。これならゴーグルをした上にヘルメットをかぶっても安全を損ないません。クールで、使いやすくて、安全です」

anon.はさまざまな手法を取り入れて、こうだったらいい、というライダーの希望を具現化しようとしている。

「そうですね、それがanon.が在る意味だと思います。滑ることに集中してほしい。そのために何ができるかを考えています。無理に目新しいものを作ろうとは思っていません。Magna-Techにしてもスナップバックにしても、できあがったものは画期的ですが、使っている技術はこなれたものばかりです。ただ、我々は常に新しい思考方法を取り入れようとしているだけです。少し見方を変えながら、ライダーたちが何を求めているかを注意深く聞く。そうすればanon.の進むべき道は、自ずと見えてくるのだと思います」

 

anon.カタログ

anon. Official web

 

TEXT:TAKURO HAYASHI