春の立山で感じた雪山の魅力。by 藤田一茂

IMG_4666写真の日付をみて驚いた。2017年5月27日。僕の気持ちを正確に伝えるには「驚いた」というよりは、「春の楽しみ方を思い出した」というべきかもしれない。昨年のシーズンアウトを飾った立山での1泊2日。「雪山でテント泊をしてみたい」と、声を掛けてきた友人を連れ「夕陽でも見に行こう」と、大きなバックパックへ荷物を詰め込んだ。
立山の標高約2,500mまでは、バスやロープウェイ、ケーブルカーなどを乗り継ぎ辿り着く。その先には、山荘やホテル、整備されたテント場が存在し、ここで仲間とのテント談義や満点の星空も立山の魅力の一つでもある。この記事では、昨年の立山キャンプの記録と共に、春山の魅力と守るべきマナーについて紹介しようと思う。
Text&Photo: 藤田一茂

立山へ。

僕はこの5年の間、5月と11月は決まって立山へ滑りに行っている。最高な雪を当て、月明かりの中でライディングをした年もあれば、テントの雨漏りと戦ったり暴風に吹き飛ばされそうになったりと、様々なハプニンもあり思い出は尽きる事がない。中でも僕が一番好きな立山の瞬間といえば「夕陽」だ。日本海に沈み込む夕陽によって、光り輝く海や田んぼ、雲、そして雪面。ここに来て良かったと心から思える瞬間がそこにはある。

立山へのアクセス方法と注意すべき点

立山へのアクセスは富山側と長野側の2つの選択肢があるが、僕らは長野在住な故に長野側からのアクセスとなった。バスやケーブルカーなどへの乗車の際にはスノーボードのエッジやスノーシュー、アイゼンなどの鋭利なものに対してのカバーが必須条件で、それぞれケースに入れる必要がある。長野側からはバス → ケーブルカー → ロープウェイ → バスと乗り継ぎ、1時間半程で室堂ターミナルへ到着する。道中には黒部ダムを歩いて渡ったり、ロープウェイからは北アルプスを眺めることができる。重たい大きなバックパックが荷物だが、歩いて登る事と比べればこんなに楽に標高2,500mにアクセス出来る事はない。注意すべきは、室堂ターミナルでは登山届けの提出を忘れないように。またターミナルにある自然保護センターでは立山の自然や雷鳥の生態を学ぶ事も出来、毎度立ち寄る僕のお気に入りスポットでもある。
※手荷物について詳しくはコラチへ。

左上)長野県大町市にある扇沢ターミナルからバスに乗る 右上)ボードにはソールカバーを装着、前方のスキーヤーはターミナルで販売されている専用の袋にスキーをしまっている 左下)黒部ダムを歩いて渡る。遠く高くに見える白い山に期待も膨らむ 右下)室堂ターミナルに到着。富山側から来た友人とも合流

立山黒部アルペンルート

*www.alpen-route.comより抜粋
2018年 全線営業期間:平成30年4月15日(日)~11月30日(金)。2018年 部分開通営業期間(立山駅~弥陀ヶ原間):平成30年4月10日(火)~14日(土)*イラストは www.alpen-route.com より抜粋

ターミナルから一歩外へ出ると大きな雪の壁「雪の大谷」出迎える。久しぶりの雪に感動する僕らを見る中国からの旅行者達。彼らにとっては雪自体が珍しいようだが、そこに現れたスノーボードを背負った僕らにも興味津々。まるで動物園のパンダを見るかのような目をしていた。

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左)雪の壁と中国からの観光客 右)久しぶりの雪に少し不安な面々。テント場までにまずは滑りますか

ベースキャンプを設置するテント場のある雷鳥沢へは歩いて40~50分といった所。僕達は少し滑ってからテント場へ行く事にした。雪は綺麗とは言えないが雨風が作り出す幻想的な自然のアートともいえる雪面が広がる。久しぶりのターンで、風と重力を感じてスッキリとしてからテント場へ向かった。

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自然が生んだアートに滑り込む。こんな景色も春ならでは
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思い思いのラインを描く。雪は汚くともターンは身体にも心にも染みる
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立山をバックにテント場へ到着


立山でのルールとマナーを確認しテントの設置

まずはテント場にある管理棟で受付を行い、ここでのルールとマナーを一通り教わる。トイレも水場(湧き水を消毒したもの)も綺麗に管理されている国立公園内に設備がある(11月になるとトイレが閉鎖されるので携帯トイレの持参が必要になる)。ちなみに、ゴミ箱は無いのでゴミや食べ残しは各自で持ち帰る。中にはルールを無視して雪に埋めて帰ったりする人もいるようだが、雪が溶けるとそのまま出てくる事は想像も容易い。食べ残したゴミは、立山に多く生息する雷鳥の天敵であるカラスの餌になる事もあるようで大きな問題となっている。山に入る以上、自然を大切にする気持ちを忘れずにルールを守って遊ばなければならない。
続いては僕の出番だ。テント初心者の友人へ簡単なレクチャーを行う。風上に入り口が来ないようにテントの位置を決め、スコップでフラットを作り、ペグをしっかり雪に埋めて固定する。風の強い予報があればさらに雪の壁を作るが、今回は穏やかな気候の2日間という事で壁は無しだ。友人達は自宅でテントを立てる練習をしたようでスムースな設営となった。やはり予習は大事という事だ。

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自分のテントの大きさをイメージしながらフラットを作る。みんな予習通りテキパキとテントを作ってくれた

雲が流れ青空が見え隠れする悩ましい天気の1日。僕はどこに行くか悩んだが、まずは雲のない近場へ行く事にした。標高の高い場所でのハイクアップは、歩き出しで息がきれるが腕を動かすと足が前に出る。
30~40分ほどで尾根に出て休憩をしていると、次から次へと流れ込む雲に覆われ、これより上には進めない状況になってしまった。やはり悩ましい天気だ。「ここから先はあまり良くなりそうに無いし、下は辛うじて見えるから一旦ベースキャンプへ戻ろう」と、仲間に伝え、列になり前の人を見失わないよう順番に滑り降りる。視界が悪いとはいえ、春のシャバ雪でのターンが身体をほぐしてくれる。こんな右往左往も山の魅力でもあったりするものだ。

立山の夕陽の魅力

ベースキャンプでしばしの休憩を取っていると、先ほどまで雲に覆われていた立山のピークが見えてきた。時刻は15:40。日没まであと3時間弱。メンツはメンズ3名、レディース2名。「とりあえず目指してみる?」と僕。「………」。少し引きぎみなメンツ達だったが、「よ~し!夕陽を拝みに出発!(笑)」。僕は立山の夕陽の中で滑りたかったんだ。

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雪山では天候の読みや運と共に体力と時間との戦いもある。とはいえ無理は禁物。細かなプランニングが重要だ

途中からメンズとレディースでチームを別け、同じ道をハイクアップする。道中に危険ポイントは見当たらないし、彼女たちも雪山初心者ではないので大きな問題はない。行動は常に無線で連絡を取り合うようにする。結局、僕らメンズチームは急斜面の直登と最後のガレ場を登りきり、日の入り前に山頂へ辿り着いた。雲海の遠く先には北アルプスの白馬三山や3,000m級の山々のみが雲の上にひょっこりと姿を現しているのが見えるが、見る見るうちに沈んで行く太陽の姿に、景色に浸る暇もなくスノーシューを急いでバックパックに付ける。赤く染まる空、赤く染まる雲、赤く染まる雪。全てが赤に包まれる時間。僕はこの瞬間の為にここに来たのかもしれない。

真っ赤に染まる山を滑り出すと、身体の奥底からドクドクと漲る高揚感に自然と声が湧いてくる。「イェーー!」「フォーー!」「ヤバーー!」。僕はこの瞬間の胸の高鳴りの虜になりスノーボードを続けている事は間違いない。自分が地球と一体化し、まるで世界の中心かのように感じるあの瞬間。スノーボードはそれを感じられる数少ないツールだと思う。

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太陽が沈むにつれ世界は赤に染まる。見とれる暇もなく、太陽に向かってドロップイン
ダミー Photo: Shin Ootsuka
登っている最中は1人ひとりでドロップするつもりだった。夕陽を見ているとこの中でみんなで一緒に滑りたいという気持ちが芽生えた。斜面も同時ドロップ出来る状態。同じ時間を共有し仲間との忘れられない想い出が出来た。 Photo: Shin Otsuka

Tateyama 2017 Spring Kazushige Fujita Riding


その瞬間、その場所に立つ事で得られること

身体の高鳴りに疲労も忘れテントへ戻る。今日の想い出を語り合う間に太陽が沈み、星が輝きだす。バーナーでお湯を沸かし晩ご飯を作る。ダウンを羽織り、雪の机を囲みながらまた今日の想い出を語り合う。空を見上げれば満点の星空。そう、こんな瞬間をみんなにも見せたかった。

インターネットの中に現実とは違う別のもう一つ世界が生まれた今、知りたい情報はそこで手に入るのかもしれない。だが、その瞬間、その場所に立つ事で得られる感情や感覚は自分の足を使わなければ得られない物だ。憧れの場所があるならその足で行かなければならない。自然に耳を傾け、その声に従い歩みを進めなければならない。自分の目で見る大切さがまた、新しい扉を開けてくれる。

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夕陽の斜面を眺め想いを馳せる仲間たち
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夜の立山。星空の中、今日の想い出を語る

最後に。

バックカントリーには多くの目には見えない危険が潜んでいます。未経験者、または経験の浅い方は必ずバックカントリーガイドや命を預けても良いと思える経験者と行動を共にしてください。また、経験があるからといって油断は大敵です。春のバックカントリーには冬とは違う危険があり、重たい雪崩や落石、凍結による滑落、大きなクラック、天候によるコンディションの変化など危険は多岐に渡ります。とはいえ、危険が全てではない事は皆さんも承知の事でしょう。雪山で素晴らしい体験をして、仲間全員で無事に家に帰る為に最善の努力をしてください。そうする事で誰もが新しい扉を開き、また次の道が見えて来るはずです。

ダミー

藤田一茂
型に囚われない滑りと枠に収まらない活動の幅で、スノーボードの魅力を世の中へ伝えるスノーボーダー。このプロフィール写真は今回の記事撮影の際に、立山で一晩を過ごした野宿スタイルにて。「星空が綺麗でしたね」。との事。
SPONSORS: Gentemstick, Billabong, Icetune, Abom, Lade, Karakoram, UN, P01, Wakelip’s, Forestlog
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