フィジカルトレーナーが立ち上げたスノーボードブランド「ZOOBAAN」

昨シーズン、スノーボード業界に新たなブランドとして登場したZOOBAAN(ズバーン!!)。ブランド名の上を稲妻が走り抜けているようなグラフィックと魂のこもった文言は不思議と見た者に印象を残す。さらに昨シーズンは板、今シーズンはウエアと、毎年展開するアイテムカテゴリーが変わっていくという独自のスタイル。そこにはどんな思いが込められているのか。フィジカルトレーナーとしてジムを経営しながら長年の夢だったスノーボードブランド設立を果たした寺田氏にお話を伺った。

ショップ店員、メーカー勤務、そしてトレーナーへ

フィジカルトレーナーとしてパーソナルトレーニングジムを経営する寺田氏だが、その経歴はスノーボードショップ店員から始まる。
「大学2年のときに地元のスノーボードショップでバイトを始めて、大学卒業のときにはスノーボード業界で働きたいという気持ちが大きくなっていたので、就活はそれ一本でした。カタログ号に載っている会社情報をみて、スノーボードメーカーに片っ端から『新卒の募集はしていないですか?』と電話やメールをしました。履歴書を送ってくださいという連絡をいただいた会社の中の方が、なんとバイトで一時期一緒に働いていた時の人だったんです。そういう縁もあってその会社で働かせてもらうことになりました。ハードでしたけど僕にとってはいろんなことを教えてもらえて修行の時期だったと思います。経験を積み重ねていくなかで、入社して2年くらいには『いつか自分のブランドを立ち上げたい』という気持ちが湧いてきていたのを覚えています」

しかし、「2005年に会社がスノーボード事業から加圧トレーニングジムに業務転換をしたんです。そのタイミングで僕は一旦スノーボードと決別しなきゃいけなくて。葛藤はめっちゃありましたね。トレーナーなんてやったことないし、俺はどうなるんだろうって。『人間、ダメだと思ったらそこで終わり、今から一生懸命勉強すればいい。何歳になったって勉強できるし、やろうと思ったらなんだってできるから』。上司から言われたその言葉を胸に、トレーナーとしての人生を新たにスタートさせました。30歳で独立してパーソナルトレーニングジムを立ち上げた時に、「将来もしかしたら好きなことをやれるかもしれないと思って、会社の業務内容にスポーツブランド製造販売業と書いておいたんです」

語感から名付けられたブランド名

一度はスノーボードから離れたが、胸にしまい続けていた「自分のブランド」をついに始動することに。
「青山一丁目で7年間、そしてこの場所(現在ジムがある赤坂)に拡大移転して2年目を迎えた時、コロナ禍で世の中は激変しました。そんな中、日々の忙しさから一時的な余裕が生まれた時、ジムを作ったときに思い描いていた『スノーボードに関することをやりたい』という気持ちをふっと思い出したんです。ちょうど、内装を作ってくれた同級生となにか新しい仕事をしようと話をしていて、2フロアあって1Fが路面店だしショップ作りたいって。その話が盛り上がっていく中でブランドを作っちゃおうということになって。それに自分がブランドを作った経緯や情熱を持って自分の言葉で伝えるには、オフィシャルショップという形で接客をしながら販売するのが理想かなと」

経営するジムの正面を「居間」をイメージしたスペースに改造。この場所が念願のZOOBAANショップとなる。ブランドに対する想いと熱を直接伝えるには、自ら直接接客をするのが理想の形なのだ

擬音語をそのまま名前にしたようなインパクトのあるブランド名はどのようにつけられたのだろうか。
「その友人とブランド名について話をしていたときに『ズバババババーンっていう効果音みたいな感じだったら面白いね。カタカナだし、どこにもないよ、そんなブランド』と。ただそのままだと長いから、コンパクトに『ズバーン』がいいねということで決めました(笑)。最初にカタカナのブランド名が決まり、そのあとに漢字と英語を当てはめて。言葉の響きの連想が雷だったので、漢字は「雷」ひと文字でズバーンと読ませて、英語はZOOBAANの「OO」に無限という意味を持たせ、永遠に光り続けるってメッセージを込めました。デッキの文字は書道家に書いてもらったんですが、Bの文字がすごくよくて、山にも雷にも見えるんです」

書道家小出あかり氏に依頼したブランドロゴ。アルファベット、漢字、カタカナ、それぞれのロゴがみごとに、雪上を駆け抜けるいかづちを連想させる

毎年別のカテゴリーを展開していくワケ

ひとつのブランドで複数のカテゴリー(スノーボード、バインディング、ブーツなど)を展開することはよくあるが、毎年1カテゴリーずつ販売していくのは珍しい。そこには寺田氏のブランドに対する価値観とこだわりが現れている。
「ただ “グラフィックがかっこいい” だけじゃなく、ストーリーがあるプロダクトの方が僕はいいと思っています。板に関しては、”衝撃” や” 一筋の稲妻が炸裂する” というようなイメージを体現する渾身の1本ができたからこそ、この板を作ろうと思えました。何も積み重ねてきていない突然現れたブランドが毎年同じアイテムを作っても面白くないですし、思いを込めたメッセージやSTORYを伝えられ方がいいんじゃないかと思うんです。だからカテゴリーのリリースサイクルも決まっていません。例えば板は4年に1回ということでもないんですよね。
あとは固定概念をぶっ壊したい。板のブランドなら毎年板をリリースして、いろんな種類がある中から選んでくださいというのが普通ですよね。でも1年ごとに商品を変えていったら面白いし、他でやってないなと思ったんです。板を買ったら、次はウエア、というふうに揃えていける。バインやブーツは僕の力で一から作るのは難しいですけど、どこかのブランドとコラボも面白いですよね(笑)。声をかけてもらったらやってみたいと思いますし、そういう面白さって絶対に必要だと思っています。どこも真似できない行動ができればさらに面白いと思います。固定概念を崩した自由なブランドというのが目標です。まずパーソナルトレーナーが本職というのがそもそも崩れてますよね(笑)。もちろん長年に渡ってスノーボード界を支え続けているたくさんの有名ブランドさんが頑張り続けたからこそ、今があるのだと思っています。その中に突如足を踏み入れ、一握りの人たちが『ZOOBAANいいね』って言ってくれれば最高の喜びなので、今の形を続けていきたいです。ブランドを大きくしたいとか、販売本数を増やしたいとは全く思っていないです」

限定数販売にこだわるのは、コスト的にうちの会社ができる限界だからです(笑)。正直者~(笑)。「板が50本ならウエアも50着。板を買ってくれた人には買って欲しいって気持ちはありますけど、人それぞれ考え方がありますし、気に入ってくれれば嬉しいです」

限定生産のあかしのシリアルナンバー。最初に決めた数量以外は決して増産することはないという

さらに、チームライダーにもブランドを思う気持ちを強く持つ人を求めている。
「チームライダーはアマチュアから選びたいと決めています。それは契約金がもらえるからライダーになりたいという気持ちではなく、『ZOOBAANが好き』『僕がZOOBAANを有名にさせます』ぐらいの強い気持ちの人と一緒にブランドを作っていきたいからです。物品提供はしっかりさせて頂きます。またフィジカルトレーニング対応もします。人数は日本人1人、外国人1人。めっちゃ目立っちゃいますよね(笑)目標はX GAMESで飛んでもらう、それがでっかい目標で最終目標(笑)。それまではブランドを続けたいなと。今年はビーニーだよ、でもいいと思うんです。何かをリリースすることを止めずに続けていきます」

トレーナーとブランドの二刀流を続けていく意味

最後に、このコロナ禍でブランドを立ち上げることに対する不安がなかったかどうかを聞いた。
「めちゃめちゃ不安でした。最初は友人との共同出資の予定だったので売れなかったらどうしようと。でも全ての責任は自分で背負った方が良いと考え、一人で全てあろうと決心したんです。でもその心配を払拭してくれたのがインタースタイル(スノーボードトレードショー)でした。コロナ禍でもしっかり展示をして販売につなげるという行動をとっている人がいっぱいいるのを見たときに『みんな動いてるよな』と僕も動く決意ができました。動かなければ話題にもならないし、FREERUNに出したのも行動のひとつです。その方が少しでも知ってくれると思って。もうひとつ安心できたのは、自分にはパーソナルトレーナーとしてのフィールドもあることです。だからこっちの仕事も疎かにしないで、ブランドもしっかりやる。二刀流で行こうと思ったときに全部のインスピレーションが繋がりました。そのイメージで(店頭に飾る)刀を2本買って、飾る場所を居間に見立てて、とイメージと行動が合っていって。それからtwitterを始めた、Instagramに動画を投稿したらちょっと沸いてくれた、HPを作ったらいいのが出来た、と、ひとつずつ整ってくるとブランドとして成り立ってきて、少しずつ不安がなくなっていきました。コロナでマイナスな気持ちになりがちな中でも自分ではピンチはチャンスかなと思えたので、結果的にはあのとき始めて良かったです。
スノーボードのプロでもないのに何ブランド作ってんのとか、誰だこいつって思っている方もいると思いますが、法律にプロじゃなきゃブランドを作っちゃいけないって書いてなかったので、商標登録も完了しましたし、色んなことを行動に移しちゃいました(笑)スノーボードが大好きなのは世界のみなさんと一緒なので(笑)」

店頭に飾られた二刀流を表す2本の刀。降りてきたイメージをひとつづつ形にしていく
フィジカルトレーナーとブランドオーガナイザー。二つの刀をどちらも妥協することなく振り続け、だからこそできる独自のブランドの形を作り上げていく

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